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【労働×求人NEWS Vol.43】年収の壁の支援対策発表!!

「年収の壁」対策、10月から実施へ(厚労省方針)
~企業助成1人50万円、130万円超2年まで扶養に!~
厚生労働省は、9月27日、年収が一定額を超えると社会保険料の支払いが生じて手取りが減る「年収の壁」対策に関する支援強化パッケージを正式に発表しました。年収が130万円を超えても収入増が一時的であれば、被扶養者に認定すること、賃上げや保険料の相当額を手当として支給し、労働者の厚生年金への適用を促した企業に1人当たり3年で最大50万円を助成する措置を盛り込みました。10月に適用を開始し、次の年金制度改正までのつなぎ措置とします。

税や社会保険の負担は年収によって異なる

年収 負担内容
103万円 所得税が発生
106万円 従業員101人以上の企業では厚生年金・健康保険の適用対象となり社会保険料が発生(2024年10月以降は、従業員51人以上の企業も適用)
130万円 従業員100人以下の企業では配偶者の社会保険の扶養対象外となり社会保険料が発生する。
150万円 配偶者の特別控除が減少する

「年収の壁」をめぐる現状

(1)就業調整の理由

厚生労働省の調査では、会社員・公務員の配偶者で扶養され保険料負担がない「第3号被保険者」のうち約4割が就労しており、その中には、一定以上の収入となった場合の社会保険料負担等による手取り収入の減少を理由として、就業調整をしている者が存在していることがわかりました。調査によると、配偶者がいる女性パートタイム労働者のうち、就業調整をしていると回答した者(21.8%)は、その理由として、「106万円の壁」、「130万円の壁」及び配偶者手当を意識していると回答しています。

(2)第3号被保険者の手取り収入の変化(イメージ)

手取りの減少につながる「年収の壁」は、106万円と130万円の2種類があります。106万円の壁は、従業員数が101人以上の企業で働き、かつ賃金や労働時間などが一定要件に達した場合、保険料負担が必要になります。それ以外の場合でも、時間外手当や賞与を含む全収入が130万円を超過した場合は、配偶者の扶養から外れ、保険料を支払わなければなりません。

有期雇用労働者実態調査

「年収の壁」への当面の対応策(「年収の壁・支援強化パッケージ」)概要


人手不足への対応が急務となる中で、短時間労働者が「年収の壁」を意識せずに働くことができる環境づくりを支援するため、当面の対応として下記支援(支援強化パッケージ)に取り組むこととし、早急に開始します。
(1)106万円の壁への対応
◆キャリアアップ助成金のコースの新設(※省令の改正が必要)
短時間労働者が新たに被用者保険の適用となる際に、手取り収入の減少を意識せず働くことができるよう、労働者の収入を増加させる取組を行った事業主に対して、複数年(最大3年)で計画的に取り組むケースを含め、一定期間助成(労働者1人当たり最大50万円)を行うこととします。
助成対象となる労働者の収入を増加させる取組には、賃上げや所定労働時間の延長のほか、被用者保険の保険料負担に伴う労働者の手取り収入の減少分に相当する手当(社会保険適用促進手当)の支給も含めることとします。
また、支給申請にあたって、提出書類の簡素化など事務負担を軽減します。
◆社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外
被用者保険の適用に係る労使双方の保険料負担を軽減する観点から、社会保険適用促進手当については、被用者保険適用に伴う労働者本人負担分の保険料相当額を上限として、最大2年間、当該労働者の標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないこととします。
(2)130万円の壁への対応
◆事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
被用者保険の被扶養者の認定に当たっては、認定対象者の年間収入が130万円未満であること等が要件とされていますが、一時的に収入が増加し、直近の収入に基づく年収の見込みが130万円以上となる場合においても、直ちに被扶養者認定を取り消すのではなく、総合的に将来収入の見込みを判断することとしています。被扶養者認定においては、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等を確認することとしているところ、一時的な収入の増加がある場合には、これらに加えて、人手不足による労働時間延長に伴う一時的な収入変動である旨の事業主の証明を添付することで、迅速な認定を可能とします。
(3)配偶者手当への対応
◆企業の配偶者手当の見直し促進
特に中小企業においても、配偶者手当の見直しが進むよう、
 ①見直しの手順をフローチャートで示す等わかりやすい資料を作成・公表するとともに
 ②収入要件のある配偶者手当が就業調整の一因となっていること、配偶者手当を支給している企業が減少の傾向にあること等を各地域で開催するセミナーで説明するとともに、中小企業団体等を通じて周知します。
職種別民間給与実態調査

キャリアアップ助成金 コース新設

短時間労働者が新たに被用者保険の適用となる際に、労働者の収入を増加させる取組を行った事業主に対して、一定期間助成を行うことにより、壁を意識せず働くことのできる環境づくりを後押しするため、コースを新設(社会保険適用時処遇改善コース)し、複数のメニューを設けます。取組開始から6か月後に支給を申請できますが、実際の支給は最も早くて2024年4月となる見通しです。、
■社会保険適用時処遇改善コース
手当等支給メニューと労働時間延長メニューについて

就労先との直接契約関係を認める判決が最高裁で確定
東リ(派遣先の労働契約雇用申し込みみなしの効果)事件
2021年11月、大阪高等裁判所は床材大手の東リに、木製の床材などの製造工程で「請負労働者」として働いていた原告5人と同社の間には無期の労働契約が存在するとの判決を出しました。原告側によると、判決は5人に計約7000万円強の未払い賃金を払うように命じました。
東リ側は判決を不服とし最高裁に上告受理を申し立てましたが、2022年6月7日、最高裁判所第3小法廷は、東リ伊丹工場事件の偽装請負で就労していた労働者5名と株式会社東リとの労働契約関係があることを確認する大阪高裁判決への東リの上訴に対して上告を棄却し、上告審として受理しない旨の決定を行いました。これにより2021年11月4日の大阪高裁判決が確定しました。

事件の概要

 本件は、ライフ・イズ・アート(ライフ社)の元従業員5名が、ライフ社と業務請負契約を結んでいた東リに対し、同業務請負契約は偽装請負の状態にあったとして、労働契約申込みみなし制度の適用により、東リとの間に労働契約が存在することの確認等を求めた事案です。
 東リは、平成11年にライフ社と業務請負契約を締結しました。その後、ライフ社で雇用する5人の労働者は労働組合を結成して、平成29年には東リが偽装請負をしているとして東リに対して労働契約申込みみなし制度に基づく労働契約の承諾通知を送付し、東リに対して直接雇用に関する団体交渉を申し入れました。東リ側は、使用者に当たらないとして拒否し、平成29年にライフ社との業務請負契約を終了し、5人はライフ社を整理解雇され裁判を提起したものです。
 一審神戸地裁は、偽装請負等の状態にあったことを否定しましたが、大阪高裁は、偽装請負状態にあったことおよび偽装請負等の目的があったことを肯定し、労働契約申込みみなし制度の適用を認めました。
 東リ側は判決を不服として最高裁に上告しましたが、最高裁は、2022年6月7日に上告を棄却しました。これにより2021年11月4日の大阪高裁判決が確定しました。

高裁判決確定の意義

 大阪高裁判決が確定したことの意味は、労働者派遣法第40条の6のみなし規定という労働者保護規定による高裁での判断で労働者が勝訴し、今後も引用できる判例となったことです。確定した大阪高裁判決は、以下のような重要な判断を示しています。
(1)「偽装請負」であるか否かの判断基準
 みなし規定要件である「偽装請負(適法な請負か違法な労働者派遣か)に該当するか否かの判断にあたって、労務提供を目的とした契約ではなく、請負事業者として独立性と専門性を備えているといえるかという点を厳格に判断することになります。特に厚生労働省が作成した「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)が参考になります。、
 会社側の主観的な主張ではなく、就労実態を踏まえ、過去の経緯や、日常的な就労実態を検討して違法派遣にあたるという判断は、派遣先の形式的な契約ではなく実態を対象として判断することが明確にされました。
(2)みなし規定適用の要件の判断について
 みなし規定適用の要件である「派遣先企業に派遣法等の規定(規制)の適用を免れる目的があったか否か」の判断にあたり、前記の就労実態を詳細に認定し、「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情がない限り、労働者派遣の役務の提供を受けている法人の代表者または当該労働者派遣の役務に関する契約の契約締結権限を有する者は、偽装請負等の状態にあることを認識しながら、組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたものと推認する」と判示しました。
(3)実務上の注意点
 企業においては、偽装請負等の状態にあったと評価されないようにすることが最も重要です。そのためには、①区分基準の各項目(37号告示)だけではなく、「全体」として注文主による指揮命令がないか考える、②形式だけではなく「実態」として注文主による指揮命令がないか考える、③グレーゾーンを作らない、④法律の遵守と業務効率の向上を二者択一と考えない、ことなどが重要です。

労働契約申込みみなし制度の概要 再確認

1.労働契約申込みみなし制度とは
 労働契約申込みみなし制度とは、派遣先等により違法派遣が行われた時点で、派遣先等が派遣労働者に対して、その派遣労働者の雇用主(派遣元事業主等)との労働条件と同じ内容の労働契約を申し込んだとみなす制度です。なお、派遣先等が違法派遣に該当することを知らず、かつ知らなかったことに過失がなかった(善意無過失)ときは、適用されません。
 派遣先等が労働契約の申込みをしたものとみなされた場合、みなされた日から1年以内に派遣労働者がこの申し込みに対して承諾する旨の意思表示をすることにより、派遣労働者と派遣先等との間の労働契約が成立します。
■労働条件について
申し込んだとみなされる労働契約の条件は、違法行為の時点における派遣会社と派遣労働者との間の労働契約上の労働条件と同一の内容となりますが、労働契約のみならず、口頭の合意や就業規則等に定めるものも含まれるとされています。
申し込んだとみなされる労働契約期間に関する事項(始期、終期、期間)も、派遣会社と派遣労働者との間の労働契約に書かれた内容がそのまま適用されます。
派遣労働者が申込みを承諾しなかったときは、労働契約は成立しません。(「雇用みなし」ではなく「申込みみなし」です)
2.労働契約申込みみなし制度の対象となる派遣先等の違法派遣の5つの類型
(1)派遣労働者を禁止業務に従事させること
   禁止業務:①港湾運送業務 ②建設業務 ③警備業務 ④病院等における医療関連業務
(2)無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること
(3)事業所単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
   以下の場合には、期間制限の抵触日以降、受け入れた派遣労働者(期間制限の対象外の派遣労働者を除く)に対して派遣先等が労働契約を申し込んだものとみなされます。
   ①抵触日の1か月前までに過半数労働組合等から派遣可能期間を延長するための意見聴取を行わずに、
引き続き労働者派遣を受けた場合
   ②意見を聴取した過半数代表者が管理監督者であった場合
   ③派遣可能期間を延長するための代表者選出であることを明示せずに選出された者から、意見聴取を
行った場合
   ④使用者の指名等の非民主的方法によって選出された者から意見聴取を行った場合
(4)個人単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
   同一の派遣労働者を、3年を超えて派遣先等の同一の組織単位に従事させた場合、その派遣労働者に
対して派遣先等が労働契約を申し込んだものとみなされます。
(5)いわゆる偽装請負等
   労働者派遣法または同法により適用される労働基準法等の適用を免れる目的で、請負契約等の契約を締結し、実際には労働者派遣を受けた場合には、労働契約申込みみなし制度が適用されます。

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[2023年10月25日]